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【ウマ娘】ナリタブライアンSS 「影に、追いつかれる。」

  • Posted by: 大蠍
  • 2021-05-20 Thu 18:07:48
  • ウマ娘
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影に、追いつかれる。
『お前のものじゃない』
足がぬかるみに嵌る。これは影...いや、まるで闇のようだ。
体が囚われる。まるで刺されたかのように右足が痛む。
「っ...何だ、これは...!」
全身に痛みが広がっていく。目を開けることが出来ない。息をするのも苦しい。私は今どうなっている?...沈んでいる。暗い、闇の中に。全身から水分を奪われたみたいだ。渇く。どうしようもなく。でもそれは、いつも感じているものとは違う。レースの度に沸騰するように熱くなる血液までもが、ほんの一滴すら残っていないだろうと錯覚するほどに。
助けを求めるように、右手を上へと伸ばす。誰かが私の手を掴んだ。

「...ん...私は...」
体全体にだるさが絡みつく。頭に鈍い痛みを感じる。
「ブライアンさん!?よかった、随分うなされてたから...あっ水飲む?」
「...いただこう」
体をよじり、周りを見渡す。トレーナー室...そうだ、今日は練習を休みにして体を休めつつ、次のレースへの対策をすることになっていたはずだ。しかし疲れが溜まっていたのか、どうやら私はこたつに下半身を突っ込んだまま眠ってしまっていたらしい。上半身にはいつの間にかタオルケットが掛けられていたようだ。さっき無意識にどかしてしまったのか、今は少しはだけた服から私の肌が覗いている。水を取りに行ったのはそういうことか。随分とこちらを気にかけて───
「...トレーナー」
「ん?お茶のほうがよかった?」
「もし私が今までのように走れなくなったら、アンタはどうする?」
一瞬、呆気に取られたような顔をするトレーナー。
「えっ何!?まさか怪我とか体に何か」
「そうじゃない。...ただ、何となく気になっただけだ」
「何となくって...」

彼は困惑していた。いや、それは私もか。今まで自分が走れなくなるなど、考えたこともなかった。脚に関しては姉貴の件もあり、日頃からトレーナーが入念にマッサージを行っている。だから、今だってそんな事にはならないだろうと思っている。...だが、さっき見た夢。あれは夢というには、嫌に現実感があった。いつものように走るにはあまりにも重く、脆く崩れそうな体。その感触が、まるで痺れのように鬱陶しく全身にまとわりついていた。
...こんなもの、寝起き特有の不快な感覚にすぎない。馬鹿馬鹿しい。
「すまん、妙な事を聞いた。今の質問は忘れ───」
「いや待って!10秒だけくれ!」
「...即答は出来ないんだな」
「ごめん。今までそういう事は、考えてないようにしてたもんだから」
姉貴のことで私に気をつかっているのだろうか。怪我で復帰は絶望的、などと少し前までマスコミが騒いでいたから。そうだ、『トレーナー』は、ウマ娘を支えるものだ。これくらいはするだろう。私が、走っていられる限りは。
...鼻に手を当てる。テープは、いつの間にか外れてしまっていた。
「別にいい。答えは必よ「支える!」...おい」
3秒もかけずに答えが返ってきた。

「俺は何も、ブライアンさんが凄く強いからトレーナーやってるわけじゃないよ」
「...アンタはトレーナーだろ。走れないウマ娘に用なんてないはずだ。そもそもアンタいつも『ナリタブライアンなら勝てる』とか言っているだろう」
「それはそれ!これはこれだ!」
「は?」
「俺は、ブライアンさんを大事な人だと思ってる。一緒に練習したり、出かけたり、勝利の喜びも敗北の悔しさも分かち合ったり。野菜は一方的に押し付けられてるけどさ。まぁとにかく、そういうことの積み重ねが、今の俺たちの関係を作ってるんだと思う。だから、俺は単純にブライアンさん。いつも俺の隣にいてくれる君が好きなんだ。それは、『怪物』だとか三冠ウマ娘だからだとかは関係ないんだぞ、うん」
「...はぁ。アンタな。いい加減後先考えないで物を言う癖は直したほうがいいぞ。というか、自分で言っておいて照れるな」
「ぐ...言いたかったからいいんだよ!それに、これのおかげでブライアンさんのトレーナーになれたんだし!」

...どうやら私としたことが、新たな大舞台を前に少しばかり気後れしてしまっていたらしい。でも関係ない。私は強い。それに、今は隣を歩いてくれる人がいる。何回沈んでも、立ち上がればまた前へと進んでいける。
「お、いつもの調子になったみたいだね」
「ああ。...トレーナー。」
「何?」
「改めて言っておくが、私から離れようなんて考えるなよ。アンタはもう私の一部みたいなもんだ。誰にもくれてやるつもりはない」
「それは嬉しいな。ブライアンさんから逃げだすなんて勿体なくて出来ないよ」
「ああ。責任はきっちり取ってもらうぞ」
お互いに、自然と笑みが浮かぶ。
「よし!じゃあ早速練習...あ、今日休みだった。それに、今はブライアンさんは身体を休めないと。お茶請けも持ってきたから食べ...あれ」
「どうかしたか?」
「ブライアンさん、テープ外れてる。今代わりを持ってってうわ!?」
立ち上がろうとした彼の手を掴み、無理矢理座らせる。...握った手のひらを通じて、彼の熱を感じる。───ああ、私の渇きが永遠に続くとしても。この温かさが伴うものならば。悪くはない。

「今はいい」
「え?」
「アンタが私のそばにいる。...だから、テープはいい」

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