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【ウマ娘】ナリタタイシンSS 「今朝、あたしのトレーナーが風邪をひいたと聞いたときは自分の耳を疑った。」

  • Posted by: 大蠍
  • 2021-05-27 Thu 04:26:20
  • ウマ娘
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今朝、あたしのトレーナーが風邪をひいたと聞いたときは自分の耳を疑った。
あいつは暑苦しくて、バカで、デリカシーがない…そんな男だから風邪なんてひいたことないって思ってた。でも、それだけ疲れがたまってたんだと、あたしは気付いた。
中~長距離を追込みで走るあたしのトレーニングはスタミナとパワーが重要になってくる。特にあたしは他のウマ娘たちよりも体が弱いから、気を付けて管理していかないといけない。
そんなあたしに付きっ切りになっているトレーナーにどれくらい負荷がかかっていることか。
一応、今日のトレーニングメニューはもらっているけど、あいつがいないと調子狂う…。
走っているときも、小休止のときも、どうしてもあいつの姿を探してしまう。

「…こんな調子じゃダメだ…」

トレーニングに身が入らない。あいつがいないのが悪い。
トレーニングの時も休みの時も平日でも休日でも、いつもあの大声であたしを励ましてくれるあいつがいないと…。

「ーーー」

ハッと、顔が赤くなるのを感じる。もう今日はダメだ、あいつのことが気になってトレーニングどころじゃない。

「だから早く治して」
「いやなにがだから何だよ…でも、来てくれてサンキューな、タイシン」
「いいから、あんたはそこで寝てて。ご飯できたら起こすから」
「ありがとう」
「…いいよ。というかこういうときぐらい最初から頼ってほしいんだけど」
「ははは、お前にかっこ悪いところは見せられねぇからな…」
「なにウオッカみたいなこと言ってんの…」

今いるのはあたしのトレーナーのトレーナー室、トレーニングを切り上げてすぐに商店街で夕食の食材を買い込んで直接やってきた。
案の定というか、あたしがやってきたとき、こいつはまだ38度くらい熱があるのにあたしのトレーニングメニューを考えていた。
四の五の言わせずに布団に叩きこんで、栄養ゼリーと白湯で薄めたスポーツドリンクを飲ませてあたしは台所に立つ。
味が薄いなんてゴネたけど、そのまま飲ませると逆に濃ゆすぎる。
さて、元気そうではあるけど体力は減ってるだろうし、予定通り煮込みうどんを作ろう。
具にネギ、ホウレンソウ、きのこ、ニンジン、油揚げ、豚バラの生姜焼きを加えた豪華仕様だ。

「できたよトレーナー」
「いいにおいだ」
「お世辞はいいから。こっちこれる?」
「ああ、まだちょっとふらつくけど」
「もう、あんまり無茶しないでよね」

大きい鍋ごとテーブルの上に持ってきて、トレーナーを助けながら席に着かせる。
うどんをどんぶりによそってトレーナーに渡して、自分の分もよそう。

「「いただきます」」

ゆっくり少しずつ食べる。うん、今日のは上出来だ。

「おいしいよタイシン。」
「あんたが満足してくれるならいいけど」
「ああ、満足だ。うーん、なんか出汁使ってる?」
「そんな上等なものじゃないよ。煮干しの頭とはらわたを取ってミルにかけたのを入れただけ」
「ああ、煮干しか」
「味噌汁に入れてもいいし、あんたも使ってみる?」
「あはは、そうだな。けど、タイシンが作ってくれた方がおいしそうだ」
「ば、バカ。そんなこと急に言わないでよ…」

もうこいつはいつもいつも調子のいいことばっかり言って…。あ、そうだ。こいつに聞こうと思っていたことがあった。

「…ねぇ、あんたってプリンとか好き?」
「えっ。まぁ、食べるけど…」
「この前、クリークさんが言ってたんだよね。あんたが購買でいくつもプリン買ってるのを見たって」
「あー…」

ばつが悪そうに頬をかくトレーナー。こいつがプリン好きなのはほとんど間違いない。何人もこいつがプリンを買うところを見てるし、あたしが1着を取った時なんか、少し高めのを買ってるのを見たウマ娘だっている。

「まぁ、その…ちょっと子供っぽいだろ?プリン好きなのって」
「いいんじゃない?あたしは可愛げがあっていいと思うよ」
「あははは、俺に可愛げか…」

似合わないな…っていいながら珍しく照れるトレーナー。うん、そろそろいいかな。

「ちょっと待ってて」

あたしが冷蔵庫から出したのはタッパに入ったプリンだ。

「お、これタイシンが作ったのか?」
「簡単な奴だけど」
「いやー手作りのプリンなんて初めて食べるよ。いただきます」
「あたしもいただきます」
薄い膜を突き破るような抵抗の後、滑らかにプリンの中をスプーンが通っていく。掬うと少しプリンからこぼれるカラメル、見た感じ今日のは『す』も少ないし、いい出来だ。
「ん!うまいぞタイシン!」
「うっさ、おいしいならいいけど」
「いや~こういうのは初めてだ。まるでお店のみたいだ」

「…購買のやつさ」
「ん?」
「あれ、ラベルを見るとゼラチンとか香料とか、牛乳と砂糖卵バニラエッセンスだけで作ってないんだよね」
「え、プリンて材料そんだけなのか?」
「うん。あとは温度調節とか、カラメル作るときに水を少し使うくらいで、ほとんど牛乳と卵だよ」
「へぇ~そうなんだ」
「あんた知らなかったんだ」
なんだか少しうれしい。思わず頬が緩む。
「いやぁこれは毎日食べたいな」
「…作ってもいいよ」
「お!マジか!ありがとうタイシン!」
「…ううん。あたしは少しでもあんたに恩返しできればいいだけだから」

出会ったとき、こいつがあたしの末脚が武器だって言ってくれなかったら多分、他のウマ娘についていこうとスタイルの合わない走り方をして早々に体を壊していたと思う。
それからも、何度も何度もあたしが間違えたとき、導いてくれたのはいつもトレーナーだった。
そんなトレーナーに少しでも何かを返すことができれば、それはいつも思っていることだ。バレンタインにドライカレーを作った時、クリスマスで間違ってテールオイルを贈ってしまった時、全部あいつに貰ってばかりじゃイヤだったんだ。
「あたしさ、可愛げがないし、付き合い悪いし、あんたにいっぱい迷惑かけちゃってると思ってるんだ」
「俺は迷惑なんて…」
「…うん、あんたはそう思ってないのは分かってる。でも、だからこそ、あたしは、少しでもあんたと一緒にいられるように、頑張りたいんだ」

今でもまだ昔のことを思い出す、体が小さすぎる、手足が細すぎる、お前はレースに出るべきウマ娘じゃない、そんなことを言われ続けた日々。
もうそういうことを言われることはなくなったけど、あたしの奥底に泥のように残っている不安。
もしトレーナーが変わったら?もしあたしがトレーナーに見捨てられたら?そんな『もし』『もし』ばかりを考えてしまう。
あたしはこいつと一緒じゃなきゃ…イヤだ。
「タイシン?大丈夫か?」
「…あ…」
いつの間にかあたしは涙を流していた。
そして、そんなあたしを放っておかないのがこの熱血バカだ。
あたしが泣いてるのに気づくとすぐに力強く抱きしめてくれた。
熱のせいか、いつもより暖かく感じる。もっと強く抱きしめてほしくてあたしもこいつの背に腕を回す。
トレーナーと一緒にいたい、いつまでもどこまでも、そんな想いが堰を切って溢れ出す。
「…風邪移しちゃうかもな」
「…その時は責任取ってよトレーナー」
初めてのキスはほろ苦いカラメルの味がした。

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