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【ウマ娘】アイネスフウジンSS 皐月賞が終わり、アイネスフウジンとトレーナー、二人に立ちはだかったのは『日本ダービーで一位を取る』という課題だった。

  • Posted by: 大蠍
  • 2021-05-31 Mon 08:12:27
  • ウマ娘
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皐月賞が終わり、アイネスフウジンとトレーナー、二人に立ちはだかったのは『日本ダービーで一位を取る』という課題だった。
到底困難な課題ではあるが、二人は諦めていなかった。
まだ午後1時を回った所ではあったものの、授業にアイネスフウジンは参加することなく、すぐさまトレーナー室に向かい、トレーナーと今後の方針を打ち合わせることにした。
いつものように、トレーナーとアイネスフウジンがソファに座り、向かい合う。
「日本ダービーまであと約一ヶ月だ。正直、時間はない」
トレーナーが腕組みをして言うのに対して
「うん、練習量増やさないとね!」
とやる気に溢れるフウジン。しかし
「いや、練習量は増やさない」
と言葉を返すトレーナー。
「えっ!?」
予想外の事に途惑いの声を上げるフウジンだが、それに構わずトレーナーは言葉を続けた。
「あと一ヶ月で劇的に何かは変わらん。それに他のウマ娘達も努力しているのは同様だ。差をつけることは不可能だ」
トレーナーの発言に言葉が出ないフウジン。じゃあどうすれば・・・とフウジンが思っていたつかの間、

「なぁ、フウジン。皐月賞の敗因は何だったと思う?」
とトレーナーが問いかける。
「・・・最後にハクタイセイちゃんに差されたこと」
少し考えてフウジンはそう答えた。
「じゃあ、弥生賞の敗因は?」
「・・・不良バ場を怖がって、大回りのライン取りをしてしまったこと」
そこで、トレーナーは少し考え
「この二つに共通することは何だ?」
と改めて問う。
「・・・ごめん、わかんない」
しかし、フウジンはその問いに答えられなかった。
天井を眺めた後、一息つき
「お前の得意な展開に持って行けなかったこと、俺はそう考えてる」
とトレーナーは話し始めた。

「皐月賞の場合、ハクタイセイが差したのはレースの本当に最後の最後だ。それ以前に、スタート直後のヴァイスストーンとの接触で、お前は前半の展開を犠牲にしてる。前半の展開に余裕があれば、ハクタイセイの差しに、お前のスパートは負けなかったはずだ。弥生賞の場合はそもそも環境が悪かったのは確かだが、終始外側を回る展開をしてしまったことで、後続のウマ娘達にプレッシャーを全く与えられなかった。晴れだったら全く違った展開になってただろうな」
フウジンは黙ってその言葉を聞いていた。
その考えが頭の中に自然と入ってくることを感じていた。あたかもジグソーパズルを埋めるかのように。
「だからここからの一ヶ月は、お前の力を出し切るにはどうすればいいか、それを常に念頭に入れ、練習に挑みたい」
自分の考えを全て述べたトレーナーは、静かにフウジンの方を見る。
「どう思う?」
と問うトレーナーだが
「お願いします!」
アイネスフウジンの答えは決まっていた。
「よし」
と頷き立ち上がった。

それに続いて立ち上がるフウジンに
「それとな、フウジン」
と話しかける。
「なに?」
と問うフウジン。
「これからは土日も付き合ってくれ」
といつもの調子で話すトレーナーに
「え?」
少しだけ声を裏がらせて返事をすふフウジン。
「練習だ」
と短く答え、トレーナー室から出ようとしたトレーナーに
「あ、うん!」
と頷き、ついて行く彼女だった。

土曜日になった。
午前7時。
「おっちゃん、おはよ」
「あぁ」
トレーナー室で挨拶も軽く済ませ、早速練習に励む二人。そして時間はあっという間に流れ、昼前になった。
そろそろお昼ご飯だな、と、背伸びをしたフウジンだが
「おい、フウジン。ちょっと来い」
と、トレーナーに話しかけられた。
何だろう、と首をひねりながらも彼について行くと、そこはトレーナー用の駐車場だった。青色の古びた軽自動車に彼が乗り、それをぽかんと眺めていると、窓が開き
「乗れ」
と一言言われたフウジン。
状況が分からないままに車に乗せられ、着いたのは東京競バ場だった。

「えっと・・・おっちゃん?」
「昼はここで済ませる」
「う、うん」
「それから、ここで夕方までトレーニングだ」
そう言われ、食堂に向かう彼を追いかけるフウジンだった。

観客に混じってレースを見るフウジンとトレーナー。トレーニングとはこの事だった。
状況は1時間前に遡る。

食事をしながらトレーナーは話す。
「午後からはレースを見てもらう」
「?」
いまいち状況が飲み込めず首をかしげるアイネスフウジン
「そのな、お前にはレースの展開の勘を身につけてほしいんだ。ここから見た他のウマ娘のレースで、お前だったらどう走るか、走ってるウマ娘がどう考えてるか、それを見極めながら、レースを観戦してほしい」

と言われ、ようやく合点がいったフウジンだった。
そして、もう少し口数多くしてくれてもいいのに、と脳内で苦笑したのは言うまでも無い。

レースが終わり夕方になった。
「どうだ?」
と問いかけるトレーナーに対し、
「うーん・・・何か疲れたの」
と伸びをして苦笑するフウジンである。
(初めての事だ。仕方ない)
と脳内でつぶやき
「まぁ、いい。これから土日は午前中は軽く練習をして、午後からはレース観戦だ。いいな」
と、話すトレーナー。
「うん!」
それに対して元気よく返事を返すフウジンだった。
レースの喧噪が黄昏とともに去りゆき、夕日が優しく二人を包み込んでいた。

5月中旬になった。
「ただいま~」
ヘトヘトになって部屋に帰ってきたアイネスフウジン
「おかえり」
と話しかけたのはルームメートのメジロライアンである。
ジャージのままベッドに倒れるようにダイブするフウジンを見て、
「最近、練習頑張ってるね」
と話しかけるライアン。
「そうかな」
ととぼけたような笑顔でライアンに返すフウジンである。
苦笑したのもつかの間、机に向かい、フウジンとは視線を合わせぬままに
「あのさ、フウジン」
とライアンは話しかけた。
「何?」
「何か理由があるのは感じてるけど、次の日本ダービー、アタシは一切手を抜かないから」

短い会話。
短い宣戦布告。
二人だけの部屋に、沈黙の空気が流れる。
「ライアンちゃん」
それを破ったのはアイネスフウジンだった。そして
「手なんか抜いたら絶交だからね」
にっこり笑って、彼女はそうライアンに言葉を返す。
いつもの笑顔で笑うフウジンを見て
「うんッ!!!」
と歯を見せて笑うライアンだった。

時間は流れ、日本ダービー前日になった。
その日は土曜日。東京競バ場にてアイネスフウジンとトレーナーはレースを観戦していた。
「どうだ?」
「うん、あのバ場を通ったあの子、スムーズにコーナーをこなせてた。多分明日は同じコースを通った方がいいの」
「他には?」
「うーん・・・下り坂で加速をするのは辞めた方がいいかも・・・あたしの脚だと負担が大きそう」
「俺も同じ事を思ってた」
一ヶ月に渡るレース観戦。それが形となり、如実にフウジンの成長に結びついているのをトレーナーは感じていた。
彼女のスペックをフルに出し切るには、ある程度の下調べと予想能力が必要になってくる。どこまで彼女にそれがあるのかは未知数だったが、今の彼女はある程度、明日の日本ダービーに向けてシミュレーションが出来ているように思えてならなかった。
一ヶ月で身体は変わることはできない。しかし、考え方は身につけることが出来る。
そう考えて、トレーナーは土日のレース観戦を課題としたのだが、アイネスフウジンはそれをまさに実現させてくれたのだ。
飲み込みが早い彼女の才覚に舌を巻き、同時に彼女を信じてよかったと脳内で述懐するトレーナーなのだった。

夕方になり、全てのレースが終わった。
車に乗り、トレセン学園に帰る二人。
調整はばっちり、シミュレーションも問題ない。明日の天気は晴れ、今日と同じくバ場状態は良だ、と彼は考える。
しかし、もしも負けたら。もしも一着を取れなかったら。その予想が、不安が、彼の脳内から離れなかった。
そしてそれが、思いも寄らない言葉を彼の口から出させた。
「なぁ、フウジン」
「何、おっちゃん」
「たこ焼き、食べに行かないか?」
「へ・・・?」
ぽかんと口を開くフウジンに
「・・・いや、何でもない」
と言う刹那
「行こ」
とフウジンが返した。

「いや、いい」
「行くの」
力強いフウジンの言葉に、無言で車を走らせるトレーナー。
目的地はトレセン学園でなく、彼がよく行っていた、アイネスフウジンがかつてバイトをしていたたこ焼き屋だった。

沈む夕日。少し生ぬるくも冷えていく空気。
それを感じながら、二人はたこ焼き屋の屋台の傍の路肩に座り込む。
町の喧噪はまばらに散らばり、夜が来るのを出迎えるような、そんな雰囲気の町並み。
そんな町をぼんやり眺め、出来たてのたこ焼きを食べながら
「明日、日本ダービーだね、おっちゃん」
とフウジンは話しかけた。
「あぁ」
と短く返すトレーナー。

「あたし、頑張・・・」
と言いかけ、言葉を飲み込んだ。
そして
「優勝するね、あたし」
と、言い換える。
トレーナーはその言葉に何も言わず、黙々とたこ焼きを食べていた。
「何か言ってよ」
トレーナーを見上げて睨むアイネスフウジン。
しばらくトレーナーは沈黙を保っていたが
「その・・・」
「言うの」
「・・・俺も、俺もお前が優勝するって信じてる」
たどたどしく言葉を紡いだ。
「うん!」
その言葉に、元気よく歯を見せて笑うアイネスフウジンだった。

東京競バ場は夏がまだ遠い5月初旬にも拘わらず、熱い熱気に包まれていた。
それも仕方の無いことである。今日は5月最後の日曜日。日本ダービーがあるのだから。
若いウマ娘が立てる生涯一度の大舞台。それを見るために20万人の観客が押し寄せていたのである。

ウマ娘達の入場も終わり、実況に寄るウマ娘の紹介が始まっていた。
『三番人気の紹介です。皐月賞はクビ差で二着。悔しさをバネに挑みます。今日も冴えるか十八番の逃げ先行、先手必勝の一番槍!石竹色の疾風怒濤、アイネスフウジン!!!』
アイネスフウジンは深呼吸をし、観客達にゆったりと手を振った。
『続く二番人気。未勝利戦から怒濤の六連勝。皐月賞の戴冠を得て、いざ二冠取りに挑戦だ!末脚鋭い芦毛のレース巧者!ハクタイセイ!!!』
ハクタイセイは満面の笑顔で、長い芦毛をたなびかせ、両手で手を振る。さもアイドルのように。
『そして今日の一番人気。弥生賞は一着だが皐月賞は三着。ダービーはどうだ?G1の戴冠が欲しい!メジロ家の誇りを胸に抱き、全身全霊で挑みます。努力で鍛えられた鋼鉄の差し足、メジロライアン!!!』
メジロライアンは観客をちらりと見て左手を強く天に掲げた。
運命の舞台が、日本ダービーが幕を上げる。

『さぁ、22人のウマ娘、ゲートイン完了しました』
アイネスフウジンはゲートの中で耳をそばだてていた。観客の声が静まりかえる。ウマ娘達の吐息が聞こえるほど、場内は静まりかえっているように思えた。全てはここで決まる。全ての運命はここで決まる。
その思いが叶うかも、その結果も全ては自分次第。
深い深呼吸をしてその刹那
『ゲート開いて日本ダービー、スタートを切りました!』
日本ダービーが遂に始まった。

少しだけアイネスフウジンはわざと遅れてゲートを出た。
そしてウマ娘達全員をぼんやりと俯瞰する。
その中で少し左右を確認したウマ娘がいる。誰かを探しているような素振りをした彼女の名をフウジンは知っていた。
(ハクタイセイちゃん・・・!)
その動きで全てを把握したフウジンは一直線に走り出す。

そして第一コーナー手前
『12番、桃色の勝負服!アイネスフウジン行きました!』
アイネスフウジンは先頭に立った。
(みーっけ♪)
それに反応し、すかさず彼女の後ろにつけたのはハクタイセイ。
しかしそれに対してどこふく風。アイネスフウジンは自分のペースで走り始める。
『1番人気のメジロライアンはまだ中段!まだ後ろの方を通っています!アイネスフウジン、皐月賞の雪辱なるか!果敢に先頭に立ちました!』
(フウジン・・・行ったね!)
それを見たメジロライアンはじっくりと脚をためる。
アイネスフウジンのペースに巻き込まれてはいけない。彼女のペースで走れば潰れるのは自分。
そう言い聞かせ中段から様子を見ることにした彼女である。

『先頭12番アイネスフウジンであります!、2バ身から3バ身離れてサハリンベレー、三番手に白い髪をたなびかせてハクタイセイと続いています!』
第二コーナーを抜けても大きな順位変動は特にない。
先頭を突っ切るアイネスフウジン。そしてそれを追うウマ娘達。
そして状況は変わらず
『第三コーナーの坂、22人の優駿が賭けがあって言います。先頭は12番、アイネスフウジン!依然として先頭の景色を譲りません!』
第三コーナーに差し掛かる。ここでウマ娘達に疑念が生まれていた。
ペースが速い。速いように感じる。
2400mという距離を先頭のアイネスフウジンはどこまでこのペースで走るのか。いつスピードを上げればいいのか。
そもそもアイネスフウジンは2400mをこのペースで走りきれるのか。
その疑念が渦巻き、中段のウマ娘達のペースにまばらな動きが生まれ始めていた。

(このままじゃ・・・不味いな)
と気づいたメジロライアン。バ群が中途半端に散らばれば、後から差しづらくなる。
少しペースを上げるか、と考えていたその刹那、
『おおっと、ここで早くもハクタイセイ順位を押し上げてきた!ハクタイセイ、二番手であります!』
先に仕掛けてきたのはハクタイセイだった。
(こんなペースで走りきれる訳ないでしょ。そろそろ仕掛けるよ!)
そう決心した彼女は、加速するが
『しかしアイネスフウジン、さらに引き離しにかかります!』
それに気づいたアイネスフウジンはさらにペースを上げた。
(くっそ!)
心の中で悪態をつき、それに応じるかのように少し遅れてペースをさらに上げるハクタイセイ。
後ろのウマ娘達はその動きに動揺し、ついて行こうか、それとも潰れるのを待つか、どうすればいいのか各々考え初めていた。

『さぁ、まもなく第四コーナーにかかるところありますが、先頭はアイネスフウジン、二番手はハクタイセイ、さらにカムイフジ!そしてメジロライアン、現在、五番手から六番手!』
坂を下りきり第四コーナーに差し掛かって少し経ち、遂にハクタイセイはアイネスフウジンのすぐ後ろに着くことに成功した。
アイネスフウジンがバ場の少し外側を走っているのに気づくと、インコースを取り、じりじりと距離を詰める。
(いける!いける!!!)
ハクタイセイは強気でいた。皐月賞と同じ展開。
最後の最後で差しきって終わり。もう自分のレースであると確信した。
『第四コーナーを抜けて、ついに直線にウマ娘達が躍り出る!』 
そして最後の直線。20万人の割れんばかりの観客の歓声が響く、勝負の舞台が彼女たちの目の前に現れた。

ハイペースで進むアイネスフウジンはゆであがる頭と飛び出しそうな心臓を抱えて考えていた。
第三コーナーを過ぎた坂では
(上り坂で加速して)
その下り坂では
(ここは惰性で力を抜いて走る)
後ろからハクタイセイが着いてくるのを感じると
(少しだけ加速して引っ張って・・・)
第四コーナー手前で
(ここで気づかれないように減速)
そしてハクタイセイがコーナーで突っ込み傍に寄ってくるのに気づき、
(バ場のいい外側を通る・・・)

全て、それは全て、トレーナーと一緒に考えたシミュレーションの成果。
一緒に歩んできた、二人三脚の成果。
アイネスフウジンは破れそうな肺を抱えてターフを駆ける。
そして思う。
この成果を実現させるのは自分だ。栄光に結びつけられるのはだ。自分しかいない。自分しかできない。
レースとは孤独なものである。
誰がどれだけ努力しようが勝者はひとりだけ。
トレーナーと一緒にトレーニングに励もうが、最後に走るのはウマ娘だけ。
そういうものだ、最後は孤独な戦いだと。

それでも、信じる人がいる。
一緒に走っていると感じられる人がいる。
それは錯覚だって分かってる。それでも一緒に居てくれると思っているのは何故だろう。
(どうしてなの・・・)
汗で湯だつ頭で、とんでもない速度で鼓動を続ける心臓を抱え、転びそうな脚を必死に踏ん張り、第四コーナーを抜けようとしていた。その刹那だった。
誰かの声が聞こえる。
誰かが自分の事を呼んでいる。
一体誰だろう。
そう思い、視線が少しだけ動く。
その先はウィング。観客席。
「頑張れ!!!!!走れ!!!!!アイネスフウジン!!!!!!!!!」
観客席からは20万人の観客がいる。それぞれに歓声を送っている。
一人の声なんて聞こえるはずがない。それでも彼女は聞いたのだ。今まで見たことのない、なりふり構わない顔で叫ぶ、彼女のトレーナーの声を。
(おっちゃん!!!!!!!!)
彼女の視線の先に、最後の勝負の舞台。地平線より遠く感じ、モンゴルの草原より広く感じる、東京競バ場のホームストレートが現れた。

『先頭は、アイネスフウジン!アイネスフウジン!!!ハクタイセイ、そしてカムイフジも押し上げてくる!!!』
ストレートを向いた途端、急加速するアイネスフウジン。末脚、いや全身全霊の末脚である。
(まだ走るっていうの!!??)
驚いたハクタイセイがそれに必死に食い下がる。
(絶対に、絶対に負けられない!!!!!)
決意を胸に秘め前傾姿勢になるアイネスフウジン。
二人の脚が加速する。
「何でだよ!!!何でそんなに走れるんだよ!!!!」
思わず声に出し、目の前のアイネスフウジンに叫ぶハクタイセイ。
その刹那だった。

「あ”れ”」
ハクタイセイの心臓が揺れる。とんでもない吐き気が胸に立ちこめる。脚が震える。
「どう”じで・・・」
動揺するハクタイセイ。
全てはアイネスフウジンの仕掛け通りだった。
スタート直後に後ろにマークされることを悟ったアイネスフウジンが取った策は、ハクタイセイを潰すこと。
ハクタイセイがコーナーにオーバースピードで突っ込み、わざわざブレーキをかけなければいけない状況を作ること。
自分は良バ場を通り、体力の温存に備える一方、ハクタイセイに有利そうに見えて体力が削られる荒れたインコースを開けた。
当の昔に、ハクタイセイのスタミナは切れていたのだ。

(畜生!畜生!ふざけんな!!!ふざけんな!!!!!)
身体が揺れる中、粉々に砕けそうな身体を必死に支え、
「待てよ!待ってよ!!!」
叫ぶハクタイセイ。
そして差がどんどん開く中
「ア”イ”ネ”ス”フーーーウジィーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!」
悲壮な彼女の叫びが木霊した。

そんな最中、
『残り400mを切って、メジロライアン!メジロライアンもすごい脚で突っ込んできた!!!メジロライアン、現在四番手!!!』
大外を回って突っ込んできたのは、メジロライアンだった。
もうアイネスフウジンにも体力は殆ど残っていない。後ろを振り返る余裕もない。いつ倒れてもおかしくない状態だった。
『アイネス粘る!アイネス粘る!!!ハクタイセイ二番手で粘っている!!!メジロライアンも来ている!!!』
それでもアイネスフウジンはまだ走る。もう残っているのは根性だけだった。
『さぁ200を切った!!!メジロライアン現在三番手!!!アイネス!!!ハクタイセイ!!!メジロライアン!!!』
鋭い末脚で順位を上げるメジロライアン。ボロボロになりながらも走るアイネスフウジン。
(もういい・・・)
アイネスフウジンは壊れそうな心臓を抱えて思った。
(もう、ここで何もかもが終わってもいい・・・!!!!!!!)
そして

『アイネスフウジン!!!アイネスフウジン!!!アイネス逃げる!!!アイネス逃げる!!!』
(だから・・・!!!だから・・・!!!)
彼女の脚は止まらない。最後の最後、スタミナと根性を絞り出しても止まらない。
(かみさま、あたしに勝利をください・・・!!!)
その脚が、きらめく。
一陣の風となって。そして
『アイネスフウジン!!!逃げ切りました!!!アイネスフウジン逃げ切りました!!!!!二着にメジロライアン!!!アイネスフウジン!!!メジロ家には負けてられないッ!!!アイネスフウジン、皐月賞の雪辱を、見事この日本ダービーで果たしました!!!!!』 
ゴール板を、アイネスフウジンはゴール板を一着で駆け抜けた。

ゴール板を駆け抜けたアイネスフウジンは、そのまま第一コーナーまで走り抜け、壊れたゼンマイのおもちゃのようにゆっくりと減速し、そして膝をついた。
そしてそのまま芝の上に倒れ込む。
汗が滝のように流れている。心臓が壊れそうな位に鼓動を早めている。
そんな中
『タイムは...2分25秒3!!!ダ・・・!ダービーレコード!!!日本ダービー、レコードタイムです!!!』
実況の興奮した声、そしてどよめき雄叫びを上げる20万人の観客。
それを意識の遠ざかる耳で捉えながら
(勝ったんだ・・・あたし・・・)
と思い、穏やかな笑みを浮かべた。

鬼気迫る走りだった。
そうメジロライアンは思っていた。
最後は抜くつもりで走ったにも拘わらず、彼女は二位。そして1と1/4バ身差だった。
普段ルームメイトとして過ごす彼女の姿とはかけ離れた走り。
一体何が、と思っていたのもつかの間、
「いやー負けた負けたぁ~」
とヘラヘラ笑って話しかけてきたのは
「ヴァイス」
日本ダービー三位のヴァイスストーンだった。
「今回は注目されてなかったし、もしかしたら勝てるかもなーんて思ったんだけどなぁ」
何てお気楽な調子で話す彼女。
そんな言葉とは裏腹に、彼女も汗だくで膝は震えていた。

遠くから倒れ込んだアイネスフウジンを眺め、二人は話す。
「すごいね、フウジン」
「うん」
「ありゃ執念だよ、執念。何があったか知らないけど、勝つためだけに捨て身になっちゃってるもん」
と笑うヴァイスストーンに対して、
(執念・・・)
と思いを巡らせるメジロライアン。
勝ちきれない自分に足りないもの。それはひょっとしたらと思い、長い髪の芦毛のメジロ家のウマ娘の姿を思い浮かべる彼女だった。

ターフの上に突っ伏して動かないアイネスフウジンを見て、
「迎えに行こっか」
と話しかけるヴァイスストーンだが
「いや、大丈夫みたいだよ、ほら」
と、ライアンが指さした。
そこにはターフに慌てて走り寄る男性の姿。彼女のトレーナーだった。
「フウジン!」
そう言って、アイネスフウジンを抱き起こす彼女。
「あ、おっちゃん・・・」
「お前大丈夫か!?怪我はないか!?」
「えへへ・・・平気なの」
力なく笑うアイネスフウジン。

そして
「はー、いい天気」
脳天気な調子で空を仰ぐ。
息が戻ったアイネスフウジンは
「ごめん、おっちゃん。脚ガクガクしてて立てないの」
と一言。
そんな彼女に抱きつくトレーナー。
「お、おっちゃん!?」
「バ鹿野郎・・・バ鹿野郎・・・!」
「泣いてるの・・・おっちゃん?」
聞いたことのない声だった。
震えた男性の声。普段淡々と、冷静に話すトレーナーとは思えない声。
「俺だって、俺だってな・・・トレーナーなんだよ・・・!」


それは、どういう意味なのだろうか。
念願の日本ダービーに勝利した喜びなのだろうか。
ウマ娘をここまで追い込んでしまった後悔なのだろうか。
今まで成果を出せなかったことへの反動なのだろうか。
これからも一緒に歩める安堵感なのだろうか。
その意味は誰にも分からなかった。
ただ、アイネスフウジンは彼の背中に手を回し、
「・・・うん。ありがとう、トレーナー」 
と一言いい、涙を流して彼の肩と頬の間に顔をうずめるのだった。

『そして今、アイネスフウジンとそのトレーナー、寄り添い合って第一コーナーの方から歩いて参りました』
肩を貸して、二人三脚の姿でゆっくりと歩いてくる二人。
『おぉっと、これは・・・!アイネスコールです!ここ、東京競バ場に集まった20万人の観客が、称えています!!!アイネスフウジンを称えています!!!』
そして観客達は、アイネスフウジンの名を叫び、彼女と彼の姿を称える。
恥ずかしいような誇らしいような感情を胸に抱く最中、
「あ」
何かに気づいたアイネスフウジンが、トレーナーをある方向を見るよう促す。
「あぁ・・・」
と何かを悟った声を出すトレーナー。

小さくだがしっかりと見えたのはスーツ姿の女性達の姿。
奨学金団体の理事達だと、はっきりと確信できたトレーナーである。
「何、おっちゃん、その顔」
トレーナーの表情に気づき、話しかけるアイネスフウジン。
「どう見える?」
と意地悪な笑いを浮かべるトレーナーに対して
「『ざまぁ見ろ』って言ってるみたい」
と笑いかけるアイネスフウジンだった。

10月中旬。東京ダービーから約5ヶ月経った。
レースを終え、後怪我が見つかったアイネスフウジンは長期療養することになった。
病院にて退屈そうにベッドに座るアイネスフウジンの元に
「よぉ、フウジン」
トレーナーが現れた。
「おっちゃん、はろはろ~」
にっこり笑ったいつもの調子のアイネスフウジン。
少し笑みを浮かべて、トレーナーはベッドの傍のパイプ椅子に座りかける。
「これ見てみろ」
そういって、出された新聞には
『京都新聞杯!優勝はメジロライアン!』
という文字がでかでかとうたわれていた。

「あ、ライアンちゃん、勝ったんだ」
「あぁ、菊花賞のトライアルレースの京都新聞杯でメジロライアンが優勝。もう一つのトライアルレースのセントライト記念じゃヴァイスストーンが優勝してる。こりゃ、菊花賞はこの二人の一騎打ちになるだろうな」
「へぇ~、頑張ってるんだね、みんな」
そう言って笑うアイネスフウジン。
しかしその予想が外れ、歴史に残る大スレイヤーの躍進の機会に菊花賞がなるのだが、これはまた別の話。

ふと窓の外を見て、アイネスフウジンは話し出す。
「一年前はまだ、新バ戦やってたんだよね、あたし達」
「そうだな」
「靴変えて、改良して、色々考えて練習して。何か懐かしい感じ」
ふとトレーナーが暗い声になり
「・・・すまないな、俺のせいで」
とつぶやいた。アイネスフウジンはケラケラ笑い
「何言ってるの。また色々教えてくれるんでしょ?」
と首をかしげる。
「勿論だ」
と応えるトレーナー。

その様子を見たアイネスフウジンは
「そう言えばね、おっちゃん。ダービーウマ娘ってね、『一番幸運なウマ娘が勝つ』って言われてるんだって」
と言葉を続ける。そして
「だからあたしは大丈夫だよ。だって、あたしは世界で一番幸運なウマ娘なんだもん」
といい、満面の笑顔を見せるのだった。
あなたに出会えてよかった。あなたに出会えたことが、あたしの一番の幸福です。
そう心の中で、トレーナーに語りかけながら。

こういう話を私は読みたい
文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する

アイネスフウジンの怪文書これにておしまいです
ありがとうございました

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