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【ウマ娘SS】マンハッタンカフェ 「4月中旬。」

  • Posted by: 大蠍
  • 2021-06-08 Tue 16:16:53
  • ウマ娘
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4月中旬。
アザレア賞を終えたマンハッタンカフェは、トレーナーの勧めにより、北海道のトレーナーの『先生』の家に行くことになった。
翌日を出発に備え、部屋にて準備をする彼女に
「カフェさん、何が手伝うごどはある?」
と尋ねるウマ娘がいた。
ふっくらした身体。丸い顔と瞳。岩手出身のユキノビジンである。
「大丈夫。ありがとうございます」
そうマンハッタンカフェは会釈して黙々と手を動かす。
「そっが~。北海道、いい旅行になるといいですね~」
「そうですね」
無表情なマンハッタンカフェの目尻が、少しだけ垂れていた。
「あたしの故郷の岩手も南に下ったところにあるんですよ~。あぁでも、今回は飛行機で行くんですよね?」
「はい・・・飛行機、乗るの初めてなので、少し緊張します・・・」
他愛のない会話をする二人。その会話の中にも明るい言葉が飛び交う。
それは未知の土地への興味と、新しい日常への期待に溢れているからに違いなかった。

翌日。朝7時。天気は曇り。
トレセン学園美穂寮前にて。
トランクケースを持ったマンハッタンカフェはぼんやりと空を眺めていた。
琥珀色の瞳に、霞がかった空が映り、橙の太陽の光が薄くたなびいている。
そんな最中、彼女の目の前に赤いエクストレイルが止まった。
そして、車から一人の男性が降りてくる。
「おはよう」
そう言って声を掛けたのは彼女のトレーナーだった。
「おはようございます」
彼女も軽く会釈すると、荷物を積み込み、車は走り出す。
助手席からマンハッタンカフェは朝靄のかかる町を眺めていた。
今日でこの町としばらくお別れだと思うと、普段見るその景色に妙な郷愁の感情を覚えてしまう彼女だった。

府中本町駅から谷保駅まで電車で。そこからリムジンバスに乗り換えて羽田空港へ。
そして羽田空港に着いたトレーナーとマンハッタンカフェは、新千歳空港行きの国内線にて北海道に向かった。
東京から北海道まで1.5時間。
短いフライトを経て空港に着いた彼女だがその顔は暗かった。
「マンハッタンカフェ」
それに気づいたトレーナーが声を掛けるが、全く彼女は気づかない。
「おい、マンハッタンカフェ」
と、強めに声を掛けてようやく
「・・・はい」
と力なく言葉を返す彼女である。
「大丈夫か?」
「・・・・・・はい」
真っ青な顔をして、明らかに不調そうな彼女である。
ここまで目に見えて具合が悪そうな彼女の顔を、トレーナーは見るのは初めてだった。
あまりの変化に、トレーナーは適当な椅子を見つけ、彼女を座らせる。

「気持ち悪いのか?」
「・・・・・・はい」
「しばらくここでじっとしていよう。先生には俺からちょっと遅れるって連絡しておくから」
「・・・・・・すみません」
うつむいて気持ち悪そうな格好をするマンハッタンカフェを置いて、トレーナーはその場所を離れる。
ふとマンハッタンカフェは、重たい頭を抱えながら、無機質な床を見て、なんだか情けない気分になっていた。
北海道まで来て、どうしてこんなに気持ち悪い気分になっているんだろう。何をしにここまで来たんだろう。これから大丈夫なんだろうか。
そういう不安の種が徐々に芽を出し始めたその時だった。

「マンハッタンカフェ」
トレーナーの声にゆっくりと顔を上げると、彼の手には紙コップが握られていた。ほんのりと焦げたコーヒーの香りが彼女の鼻に漂ってくる。
「ゆっくり飲んで」
そう言われ、コーヒーを手に取る彼女。口に含むと牛乳と砂糖のやさしさと甘さが口いっぱいに広がった。
「カプチーノ・・・だけど、これでよかった、か?」
少し自信がなさそうに、少し不安そうに、目の前の若いトレーナーはそう声を掛ける。
「・・・はい、おいしいです」
口の中で転がした暖かい甘みが、鼻から吹き抜けるやさしいコーヒーの香りが、彼女の身体の中をゆるく広がっていっていた。

空港のロビーにて二人を見て手を振る壮年の男性がいた。
彼こそが、トレーナーとマンハッタンカフェを招いた、トレーナーの先生だった。
「こんにちは、お二人とも」
にこやかな笑顔をした先生は、そう言って右手を出した。
「先生、お招きいただきありがとうございます」
そう言うと、トレーナーは先生の手を握り、軽く握手を交す。
そして先生はマンハッタンカフェの方を向かい合い、同様に右手を差し出した。
「これから宜しくお願い致します」
「よろしく・・・お願いします」
マンハッタンカフェは、軽く彼の手を握る。すこし視線を逸らしながら応じる彼女に、先生は暖かな視線を向けるのだった。

先生の車。古いパジェロで空港より走って30分程立った。
東京とは異なり、そこにある大地も、空すらも広く思える。平原が幾重にも広がるそんな景色をひたすら走るうち
「ここですね」
先生の家に車はたどり着いた。
赤い屋根のちょっと古味がかった木造のペンションのような二階建ての家。少し離れた所に離れがある。
敷地は広く、正面に家を見て、その奥には畑があるようだ。そして左側にはトラックコースと坂道が用意されている。
肝心のそのコースには、何やら複数の重機と人が入り、慌ただしく何かの作業をしているようだった。
先生が車を止めて、コースの方に歩き出す。
慌てて、トレーナーが助手席から降りると、それにつられるようにマンハッタンカフェも後部座席から降りた。

顔のいかつい、岩のような男が
「おーい、先生。こんなもんでいいか?」
と、にっかり笑って先生に話しかける。
「はい、少々お待ち下さい。確認致します」
そう先生は言うと、彼らが作業をしているコースを歩き出した。
そしてゆっくりと一周してくると
「はい、大丈夫です。ご協力ありがとうございました」
と、岩男に声をかける。
「いや、なぁに。お安いご用さ」
と彼は言い、他の男達に声をかけ、撤収準備を始める。どうやら先生に練習コースの整備を依頼された業者のようだった。

業者達が撤収する間、トレーナーとマンハッタンカフェは、家の方に案内された。
1階はリビングとダイニング、そして書庫。ユニットバスや洗面台も1階にある。
2階には4箇所ほど個室があり、広さは8畳ほど。ベッドと机もしつらえられており、一人でくつろぐには十分な部屋である。
あてがわれた各々の個室に荷物を置き、二人が再び表に出ると、既に岩男とその一行は、先生の家を後にし始めていた。
トレーナー、そしてマンハッタンカフェは彼らを見送った後、
「さて、お二人とも。到着して早々ですが、お手伝いをお願いしたいのですが、よろしいでしょうか」
と先生に声を掛けられる。
「はい!」
「はい」
各々の返事に『よろしい』というような態度で先生は頷くと、
「ご覧の通り、この練習コースはしばらく使っておらず、今整備をした所です。トラックと坂道は整備をしてもらい、練習するには十分ですが、他の箇所は全く手つかずです。お二人には、できる限りこの練習場を綺麗にして欲しいのですが、お願いできますでしょうか?」
と二人に声を掛けた。

「承知しました!」
「わかりました」
二人は早速ジャージに着替え、練習コースの整備に乗り出すのだった。

時間はあっという間に過ぎ、夕方になった。
広い大地に沈む夕日はどうしてこうも雄大に見えるのだろう、とぼんやり考えながらトレーナーは夕日を見ていた。
手にはほつれた軍手と使い古した木槌。
柵が所々傷んでいたので、それを直していたのだが、黙々と作業を進める内に、汗も汚れも身体にいい具合に染みついて、どこか心地よい疲れに彼は包まれていた。
少し風が吹き、紅に染まる大地に、草が擦れ合う音がして、遠くから軽トラックが走るエンジン音がかすかに聞こえる。
あぁ、ここは北海道なんだな、と自覚してしまう風景に見とれていると、
「お疲れ様です」
と後ろから先生が話しかけてきた。

「あ、お疲れ様です」
と返すトレーナー。
それに頷くと
「そういえば、マンハッタンカフェさんはどこなのでしょう」
と先生に聞かれて、そういえば、と思うトレーナーである。
確か彼女は雑草むしりをやっていたはずだ、と思いだし、
「おーい、マンハッタンカフェー!終わりにするぞー!」
と声を掛けるが、一向にその姿は見えなかった。
「アイツどこに行ったんだ・・・」
「ちょっと探してみましょうか」
トレーナーと先生は顔を見合わせ、広いトラックの周りを歩き出す。
トラック近辺は雑草だらけだったが、彼女がむしったのだろう、綺麗な土の色が現れ、歩道として十分機能する程度に仕上がっていた。
そんな彼女が作った歩道をしばらくして歩いて行くと、

「おやおや・・・」
「うぉ・・・」
トラックコースを3分の2ほど歩いたところだろうか、黙々と雑草をむしる彼女の姿があった。
どうやら後ろに居るトレーナーと先生の姿には一切気づいていないらしい。
「すごい集中力ですね、彼女」
と先生がこっそり耳打ちし、
「ちょっと、このまま眺めていましょう」
と、トレーナーに声をかけた。

夕日が地平線に飲み込まれ、紅色の大地がラピスラズリのような深い青色に変わっていく。
暖かな太陽の恵みが大地から消え失せはじめ、夜のとばりが広い大地に幕を下ろす。
そんな状況であっても、彼女は草むしりを辞めなかった。
すこし冷たい風が吹いて、トレーナーが身を震わす中
「はい、マンハッタンカフェさん」
と、先生が彼女に声を掛けた。

「・・・はい」
ようやく二人に気づいた彼女が振り向き、立ち上がると
「見て下さい、すっかり日が暮れてしまいました」
と、にこやかに話しかけた。
明けの明星のような大きな瞳が、先生を見つめている。
すっかり暗く沈んだ大地の中に、マンハッタンカフェの瞳が輝いている。
「よく頑張りました。今日はここまでにしましょう」
「・・・わかりました」
彼女は立ち上がり、先生はそれに頷いて、家路へと歩き始める。
彼女の作った道は、トラックコースを一周し、彼らを容易に帰るべき家への道筋を作り上げていた。

家に帰って各々着替えると、早々に夕食に預かることになった。
食卓に出てきたのは先生特製のニンジンオムレツと、炊きたてのご飯、じゃがいもの入った味噌汁と、ベーコンとほうれん草のソテーだった。
「食べる前にお祈りをしましょう」
という先生が手を合わせて眼を閉じる。
トレーナーもそれに習って慣れた様子で目を閉じると
「お祈り・・・」
とつぶやいたマンハッタンカフェも大きな瞳を閉じ、手を合わせた。
「はい、では食べましょうか」
静かな夜に、静かな食事の音がダイニングに響く。
それは暖かくもやさしさを伴った柔らかい静けさだった。

「ここからこの共同生活についてルールを決めたいと思います」
食事も早々に終えると、先生がそう切り出した。
「食事は毎日私が作りますが、皿洗いはお二人に手伝っていただきたい。よろしいでしょうか」
二人はそれに頷き、よし、と先生が笑顔で頷いた。
「風呂掃除も同様ですね。三人で当番制にしましょう」
これにも二人に異存は無いようだった。
「あと、洗濯は・・・そうですね。私と貴方で交代で行えれば」
と、トレーナーを見て言い出したのもつかの間
「あの」
とマンハッタンカフェが声を上げる。
「はい、マンハッタンカフェさん」
「お洗濯、私もやりたいです」
その発言に少々トレーナーは面食らった。
マンハッタンカフェが自分から何かをやりたいと言い出すのを聞くのはこれが初めてだったからだ。

「どうでしょうか」
と、先生がトレーナーに請うと
「は、はい」
と返事をして
「お願いできるか、マンハッタンカフェ」
と改めてマンハッタンカフェにトレーナーは確認した。
彼女は真っ直ぐにトレーナーを見つめ、深く頷いたのだった。

「さて、練習ですが、お二人のお手伝いもあり、明日から取り組むことができますね。ただ」
といい、トレーナーを見る先生。
「あ、はい!」
「私の練習場は、ご覧の通り、芝が植えてありません。トラックコースにはウッドチップが敷かれています。芝のレース場とは具合が異なると思いますので、初日の練習は軽く行って下さい」
と先生はトレーナーに話しかける。

ウッドチップコースとは、走路の基盤の上に、粉砕された木片を敷きつめたバ場である。日本でも練習用バ場として多く用いられているが、その利点はダートコースに比べてクッションが数段よく、脚への負担が少ないことだ。また維持管理の面でも芝より秀でている。
「マンハッタンカフェ、いいか?」
とトレーナーが確認し、
「はい」
と彼女は応えた。
「こんな所でしょうか」
と、先生は一息つくと
「それでは、ここからは各自自由です。私は自分の部屋にいます。私の部屋は離れです。最近歳のせいか、早く寝てしまうことが多いので、ご用があれば、訪問前に電話して下さい」
といい、ダイニングから去っていった。

残された二人だったが
「それじゃ、俺も自分の部屋に行くから・・・」
「はい」
と、トレーナーも足早に自分の部屋に帰ろうとする。
部屋に帰る手前で
「あ、マンハンタンカフェ」
と、トレーナーが話しかけ、
「はい」
と応える彼女。
「明日から、よろしくな」
と、言う彼に対して
「はい」
と短く返事をし、彼女と彼の会話はそこで終わった。
ただ、その雰囲気は、決して暗くも無機質でもない、かといって明るさがあるわけでもない、どこか綿に包まれたようなものだった。

翌日。天気晴れ。
朝7時前。
「さっむ・・・」
4月の北海道の空気は冷える。
目覚まし時計で眼を冷ましたトレーナーは、布団のぬくもりに名残惜しさを覚えながらも、のろのろとベッドから出て立ち上がった。
2階から階段を降りてきたトレーナーに
「おはようございます」
と、先生が声を掛けた。
「先生、おはようございます」
と眼をこすって応えるトレーナー。
ダイニングに落ち着き、ぼんやりと先生の作ったコーヒーをすすっていると
「・・・そういえば、マンハッタンカフェは」
とトレーナーが先生に尋ねた。
「彼女なら」
それを聞いた先生はにっこり笑って親指を外の方に向けたのだった。

広い広い大地に朝日が昇っている。
肌寒い空気の中で刺すような包むような太陽の光が練習用コースを照らす。
「驚きましたよ。私と同じくらい早くから起きて、一緒にコーヒーを飲んで。早速走ってみたいと仰ったので、ちょっとだけ彼女に任せています」
先生とトレーナーは練習用コースを眺めていた。
そしてそこには軽く走り込みを行うマンハッタンカフェの姿があった。
青鹿色の髪をたなびかせて走る彼女。太陽の光にそれは照らされて、黒曜石のようなきらめきが、トレーナーの瞳に映り込む。
「マンハッタンカフェさん!朝ご飯が出来ましたよ!」
そう先生が声を掛けると、マンハッタンカフェはトラックを走る脚を止め、彼らの元に走り寄ってきた。
「どうですか?ウッドチップのコースは」
「やわらかくて、走りやすいです。脚が痛くありません」
そう言う彼女の瞳の奥には、金色の光がきらめいている
それを見た先生が
「どうします、『トレーナー』さん」
と、トレーナーに話しかけた。

トレーナーは活力がにじみ出ているような笑顔を浮かべ
「それじゃ、朝ご飯を食べたらちょっと本格的にしてみようか」
と彼女に話かけた。
「はい」
とうなずく彼女の声色も、少しだけ、この広い世界に漂う張りのある空気のように、ぴんと張った絹糸のような響を含んでいるように、トレーナーには聞こえたのだった。

こんな話を私は読みたい
文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する

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