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【ウマ娘】SS 「あのハルウララが高知にやって来る」

  • Posted by: 大蠍
  • 2021-07-03 Sat 12:00:00
  • ウマ娘
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あのハルウララが高知にやって来る
教師から告げられた言葉にクラスメイト――高知トレセン学園の生徒たちがにわかに色めき立った
ハルウララと言えば、かつてここ高知で走っていたウマ娘だ
地元に居た頃からレースではまったく勝てず、中央トレセン学園に転入してからも連敗記録を伸ばしていたが
その前向きな明るさで多くのファンを獲得。ついにはG1レースであるJBCスプリントで1着
有馬記念への出走を経て、ウマ娘の頂点であるURAファイナルズの短距離ダートで優勝したという感動的な内容は全国的にも大きく取り上げられた
そんなあの子が高知レース場で模擬レースとファン感謝ミニライブイベントを行うのだという
……財政状況厳しい寂れた地方の、少しでも人を呼び込もうという涙ぐましい努力の結果だろうか

「ふんっ、なにがハルウララよ。どうせならスペシャルウィークとかナリタブライアンを呼べばいいのに」

アタシはあえて周りに聞こえるように不満を口にした。

「いるでしょ?セイウンスカイとかグラスワンダーとか、有馬記念で活躍した〝本当に強いウマ娘"が」

周りの席のクラスメイトたちが気まずそうに視線だけ向けてくるが、なにも言わない。
それを確認して、アタシはふんっと黒板に視線を向けるのだった。

 ・ ・ ⏰ ・ ・

『さあ、ついに始まりました今回の模擬レース。晴れ渡った空の下、ここ高知レース場にて12人のウマ娘たちが出走を待ちわびています。距離はダートの1400、バ場状態は良となっています』

ゲート前、響き渡る実況の声に耳を傾けながらアタシは耳を立てて周囲を観察する
今日は異常に観客の数が多い、ハルウララを目当てにやって来たファンたちだろう

…高知にいたころのハルウララならよく知っている
底抜けに明るくて、アホみたいに脳天気で、負けても負けても、ただ走れるだけで楽しいといつも笑っていた子だった
それがアタシには気に入らなかった
レースに負けて悔しがるでもない、食らいついていこうという気骨も、次はどうすれば勝てるか反省する様子もない
敗北を他人事とすら思っていない、負けを心から何とも感じていないあの態度が気に入らなかった

あれはレースじゃない。あんなの勝負に挑むウマ娘の姿じゃない。かけっこが好きな子供が遊びまわって走ってるだけ
だから、アタシはハルウララを応援しようという気持ちにはなれなかったし、気に入らなかった
あの子が中央に転入した時も、ウマ娘の頂点を決めるURAで優勝した姿をテレビで見た時も、
いつもビリでアタシより遅かったあの子が中央で活躍しているのが悔しいというより信じられないという気持ちが強かった
そのハルウララはといえば、観客席の声援に応えぶんぶんと大きく手を振り返している

『1枠1番ハルウララ、1番人気と1が並んだ本日の主役ウマ娘です。パドックでも1番の笑顔を見せてくれましたね』
『観客席からは早くも声援が飛んでいますが、どんなレースを見せてくれるのか私も今から楽しみです』
『続きまして、2枠2番――』

内枠……芝ならともかく、短距離ダートでは不利な位置
ちょうどいい、今回はフルゲートの12人。中央で勝って調子に乗ってるのかもしれないけど、ここで一泡吹かせてやる…

『ゲートイン完了。出走の準備が整いました』

…………。
息を整え集中する。

『さあ、ゲートが開いた。各ウマ娘、揃って綺麗なスタートを切りました』
『おっと、早々にひとりのウマ娘が飛び出しました。先頭(ハナ)をきって進むのは――、』

レース開始直後の展開は予想通りの動きになった。飛び出したのは脚質として逃げを得意とする子。
アタシはそのすぐ後ろに先行の形でつく。いつものレース場、いつもの顔ぶれ。分かりやすく動きやすい。

『2番手に続くのはやはりこのウマ娘!「   」だ!!』
『現在5連勝と記録を伸ばしていますが、今日も絶好調と言った様子ですね。これは期待できますよ』

アタシの名を呼ぶ実況の声が届く。レースに集中しつつも、頭の中で同時にそれらを処理していく。
最初のコーナーを抜け第2コーナーへ入る際に後ろを振り向くと、最も内側を走るハルウララの行く手を阻むように、一人、二人と他のウマ娘たちが強引に前に出ようとしていた。
……さあ、どうすんの?こう行く手を阻むように陣取られちゃ、差しや追込には抜け出すのも一苦労でしょ…!

『注目のハルウララですが、現在バ郡の中団に位置しています。』
『まだ脚を溜めているのでしょう。彼女の差し足は脅威ですよ』

―――

「高知レース場は1周距離が1100m、東京レース場のダート1900mと比べレース場そのものが小さいため位置取りが非常に重要だと言っていい」
「どうした急に」
「1、2コーナーは阪神レース場と同じく半径が小さくコーナーがきつい。差し・追込は半径の大きい3、4コーナーで勝負出来る余地があるがそれでもレース場そのものが小さいため後方は非常に不利になる」
「確かに。内枠が有利なのは芝や長距離の場合だからな。それにダートでは砂をかぶる危険もある」

―――

『さあ第3コーナーを回って第4コーナーへ、後方集団はまだ動きが無いぞ!このまま勝負が決まるか!?』

両足に大きく力を込める
前を走る逃げの子の息が乱れたのを見計らって、アタシは一気に勝負を仕掛けた
急なコーナーだけど無理にインを意識する必要はない。むしろ外に膨らみながら加速してかわしていく!
もう前を遮るものはない。このまま行ける!1着っ!!

『ここで一気に加速したのは「   」だ!先頭が入れ替わったぞ、このままいけるか、第4コーナーを抜け出して……ってああっ!』
『ハルウララです!中団からハルウララが上がって来た!強烈な差し足だ!1人、2人とかわし……ああ!内を突いていくつもりか!?』

レース場に響く悲鳴のような実況にアタシは笑みを浮かべていた

ハルウララ、やっぱバ鹿だよアンタ
さんざん高知で走ってきたくせに、初心者みたいなミスをするんだから
ここ高知レース場では内側を2、3人分は余裕を持って、インを空けて走るのが常識だ
なぜ、ここでは内側が不利なのか
なぜ、インコーナーを避けて走るのか
答えはラチ沿いは砂が深いからだ。当然スピードは出ないし、無駄にスタミナを消費するだけ

……勝った!

「――え?」

残り150mもない。あとはこのまま駆け抜けるだけ。そう勝利を確信した瞬間、一つの影がアタシを"内から"抜き去っていった。

『内から内から!ものすごい脚だハルウララー!と言っているあいだに抜き去りましたハルウララ!ハルウララです!』

ありえない。信じられない。目の前の光景が理解できない
なんで?どうして?
いつも走ってるコースなんだ。内側がどれだけ走りづらいかぐらい分かってる
その荒れたバ場を無視して走る姿が信じられない

まだだ、抜かれたのなら抜き返せばいい
でも、これ以上は速く走れない
いつものレースならライブのために余力を残して走れている。その余力まで使って走ってるのに
腕が動かない。足が上がらない
末脚なんてとうの昔に使ってるのに、それ以上の全身全霊で加速するハルウララに追いつけない

『ハルウララが今、ゴォールイン! 続いて2馬身差、2番手「   」! そして3着は、』

実況の声が、どこか遠くに聞こえる。
着順掲示板を見る。何度確認しても着順は変わらなかった。
途中までは勝っていたレースだった。終盤までの展開だって完全にこちらが有利な状態だった。

負けた……アタシは、実力で負けたのだ。

「~~~~~っっっくっそおおおおおおおおおおお!!!」

最後にもう一度だけ着順掲示板を見つめたアタシは、よく晴れた青空を見上げ、……絶叫した

 ・ ・ ⏰ ・ ・
一つ、あのイベントの模擬レースを終えて分かったことがある
それはアタシが高知での日々に満足して向上心を失っていたということだ
よく知った地元で、いつものレース場で、慣れ親しんだ相手に勝ってそれで満足していた
あのハルウララが中央に転入したと聞いた時も、URAファイナルズで優勝したと聞いた時も
信じられないとは思っても悔しいとは感じなかったのがその証だ

だから…今より本当に強くなろうと思うなら、アタシは挑戦しなければならない
目の前に広がるのは、高知とは比べ物にならないくらい大きな中央トレセン学園とその正門

アタシは中央トレセン学園の転入生
まだ無名のモブウマ娘だ

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